菊地勝吾の日記

シドニーに住んでいます。ドイツのIT企業に勤務。ラグビーが大好きです。

7人制ラグビー 豪州女子が圧倒的に強い!NZを撃破して第一ラウンド優勝                              強さの要因を考えてみた

ラグビー7人制(セブンズ˚)の世界ツアー第1ラウンド、HSBC SVNS 2024 ドバイ大会が12月2日と3日に開催された。1日目の試合をテレビ観戦して驚いたのは、オーストラリア女子の際立った強さだ。宿敵のニュージーランドを決勝で破り第1ラウンドを優勝で飾った。2016年のリオデジャネイロ五輪で金メダルを獲得したオーストラリア女子は、来年のパリ五輪でも金メダルを獲得できるだけのパワーとスピード、そしてスキルの高さを大会初日で示した。豪州女子のセブンズが圧倒的な強さを発揮している秘訣は一体何だろうか。

ラグビーセブンス世界ツアーの第一ラウンド ドバイ大会 Photo : World Rugby

第一ラウンドの優勝カップを手にした豪州女子 Photo : World Rugby

豪州代表の1日目プールBの試合結果は女子が3戦全勝。しかも、ブラジルと日本には得点を許さず大差をつけた。アイルランドには1トライを許したものの、28ポイントもの点差だ。一方の男子は1勝2敗で、女子とのパファーマンス結果に大きな開きが出た。

決勝トーナメントで豪州女子は米国に32-5 で勝ち、順当に準決勝に進んだ。準決勝では強豪のフランスを21-14で破った。決勝は因縁の強敵と言えるニュージーランドを相手に競り勝ち、26-19  で優勝した。

豪州女子はプールBで3戦全勝 圧倒的な強さを示した Photo 7 & Image : Rugby Australia

一方、男子は決勝トーナメントには進んだものの、準決勝で南アフリカに敗退し8強どまりだった。ちなみに、男子は15人制で最新の世界ランキングが9位とトップグループの5カ国から引き離されて低迷中だ。7人制でも金メダル候補の女子ほど注目されていないのが現状と言える。

男子は15人制で豪州代表のキャプテンをしてきたマイケル・フーパー選手が今年から7人制に転じてパリ五輪を目指すので、これから注目されることになると見られる。だが、彼が実際に出場するのは来年1月末の第3ラウンドのパース大会から。スター選手の登場によって男子の7人制が盛り上がるまでには、まだ少し時間がかかる。

7人制ラグビーで豪州女子はどうしてこんなに強いのか。

代表選手たちはオーストラリア女性の平均身長とされる165cm より少し高い人がほとんどだが、目立って高身長というわけではない。キャプテンのシャーロット・キャスリック(Charlotte Caslick)の場合は170.2cm 。日本人男性の平均身長が171.5cm とされているから、東京の街中を歩いていてもそんなに目立たないはずだ。

豪州代表チームがトレーニングをしている様子は以下のビデオ(2023年1月に筆者が撮影)で見れる。キャスリック選手などを含めて身長的にはオーストラリアでごく標準的な女性ばかりだ。

しかし、全員の体躯がすごい。彼女たちを近くで見ると上半身から下半身まで筋肉量の多さが目立つ。子供の頃からよく食べ、様々なスポーツを通して、非常によく運動してきたであろう彼女たちの身体成長の歴史を物語っている。とにかくガタイがすごいの一言。柔道やレスリングなどの格闘技もしてきたのかと思うほど、がっちりしているのである。

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日本は柔道やレスリングが世界トップレベルにあるので、スポーツとして非常によく組織化されて盛んだが、オーストラリアでは柔道やレスリングは非常にマイナーなスポーツだ。したがって、彼女たちの多くは格闘技系のスポーツではなく、他のボール系スポーツやジムでのウエイトトレーニングでこれだけ優れた体格に成長してきたはずだ。

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しかも彼女たちは足が速い。代表選手のひとりで、今回のドバイ大会でデビューし、初トライをあげたケイトリン・シェーブ(Keitlin Shave)選手の場合、高校時代は100M、200Mなどの短距離のスプリンターで、世界陸上競技連盟の公式ランキングが記録として残っている陸上選手だった。

https://worldathletics.org/athletes/australia/kaitlin-shave-14670278

ケイトリン・シェーブ選手 ドバイ大会でデビューし初トライ Photo : Rugby AU

陸上選手からラグビー界に転身する例は、多いのか少ないのかは手元に数字がないので分からないが、ラグビー以外の競技から7人制ないしは15人制にスポーツ転身して活躍している選手はかなり多いはずだ。

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豪州女子の7人制代表選手たちを見ていて感じるのは「高度に鍛錬された身体能力を持ち格闘技ができるような強い体格を持った上に、陸上選手のようなスピードをもった女性たちがラグビーをプレーしている」である。

代表選手たちが筋力トレーニングを行う施設や設備は非常に恵まれている。豪州ラグビー協会があるシドニーの本部ビルには、選抜されたエリート選手向けに特別のジムがある。ここでは豪州代表だけではなく、州代表に選ばれた7人制の女子選手たちが定期的にトレーニングを行っており、専任のコーチが指導にあたっている。国代表、州代表をとわず、選手の育成活動が集中的に統合されているのである。

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豪州代表チームの施設でジムトレーニングに励むNSW州代表の女子セブンズチーム

豪州女子7人制ラグビーが今、世界のトップに立っている成功の秘訣を自分なりにまとめてみると、以下の5点を挙げることができる。

 

1.  学校スポーツとしてではなく、クラブスポーツをベースに選手が育成されてきた

2. 選手育成のシステムが長期的に一体・統合化され、地域・州・国ベースで運営を簡素化

3. 他のスポーツを経験した有力選手も柔軟に採用。縦割り組織でなく水平・流動型

4. 15人制に比べると、7人制は他の競技コードとの選手獲得競争が弱い

5. 五輪競技のひとつとして、7人制女子はエリート選手への補助や支援が手厚い

 

第4盲目の他の競技コードとは、15人制のラグビーユニオンよりも商業的に成功して豪州東部で人気が高い13人制のラグビーリーグ(NRL)のほか、豪州全国で人気が高いオージールールズフットボール(AFL)が相当する。NRLとAFLも女子のリーグ戦がこの2、3年で活発になっており、試合中継や大衆紙での報道、テレビショーなどを通じて商業的にも成功してきた。女子選手の獲得競争は、中学・高校生の段階から激しくなってきた。

豪州女子7人制ラグビーをこれから来年のパリ五輪まで追っていきながら、スポーツ選手育成のあるべき姿を自分なりに考え、自分のアマチュア・コーチ活動に活かしていきたい。