菊地勝吾の日記

シドニーに住んでいます。ドイツのIT企業に勤務。ラグビーが大好きです。

ラグビーワールドカップ 2027年オーストラリア大会での豪州代表の活躍を期待!  ジュニア・ラガーたちの成長を見守る

2023年のラグビーワールドカップで、過去2回の優勝経験のあるオーストラリア代表はプールステージで敗退し、非常に残念な結果となってしまった。世界のトップレベルで活躍してきたオーストラリアは世界ランキングで今や9位(2023年11月9日時点)と低迷。プライドの高かったオーストラリアのラグビー界とファンにとって今は屈辱的な感情を持たざるを得ないような状態だ。

しかも4年後には自国でワールドカップを開催することになっている。豪州ラグビーはこのまま低迷を続けるのか?それとも力強く復活して、4年後のワールドカップで優勝を狙えるまでに上昇できるのか。その成功のカギは、ジュニアからシニアに至るまでの国内でのラグビー振興と、若手プレイヤーの育成にある、と心の底から思う。

ラグビー豪州代表 World Rugby 公式ホームページより

(注:オーストラリアでは東海岸のニューサウスウェールズ州とクイーンズランド州を中心に13人制のラグビーリーグが盛んである。ルールもかなり異なるほか、ファン層にもかなり大きな違いがある。このブログで述べるラグビーとは15人制のラグビーユニオンである。シーズン中の定期的なテレビ放映などを通じて商業的にはるかに成功しているラグビーリーグの方が、シドニーやブリスベンなど都市部では人気がずっと高く、ラグビーユニオンにとっては手強いライバル的な存在だ。)

 

オーストラリアのラグビーのジュニア(5歳〜18歳)はこれまで、南半球の春を迎える9月以降になるとオフシーズンだった。ラグビーをプレーするジュニアたちの間では冬はラグビー、夏はクリケットというオーストラリアならではの「伝統」があったからだ。特に中高一貫のハイスクールの私立系ではこの傾向が強い。ところがここ数年、7人制ラグビーが盛んになり始めたため、9月からもラグビーを続けるジュニアのプレイヤーが小学校でもハイスクールでも増えてきた。

 

主要都市のひとつ、シドニーでは「Sydney Junior Rugby Union」が運営する15人制の公式試合が4月末から8月末にかけて開かれているが、過去3年ほどは10月から7人制の公式試合が翌年3月にかけて実施されるようになり、今や「ラグビーは1年を通じてプレーするスポーツ」と徐々に言われるようになってきた。

 

女子ラグビーも盛んになっており、ジュニアの場合は7人制が年に3回の公式戦シーズンがあるほか、男子ラグビーと並行する形で、ジュニアでも10人制・15人制の女子ラグビーの公式戦が開催されるようになってきた。女子ラグビーが注目されてきた背景には、ラグビーのライバルであるラグビーリーグが女子のプロ・リーグ戦を開始して、テレビ放映もされて人気が出てきたことなどがある。このコード(*ルールに相違があるものの類似したプレー形態で行われるスポーツ)間の競争が、ラグビーそのものと女子スポーツの底上げにつながっている。

 

日本のトップリーグでもプレーする世界的なプレヤーを輩出してきたオーストラリアは、ラグビーに関しては非常にしっかりとした組織・運営体制をもっている。これは子供から大人までのプレーヤー育成システムに反映されており、ジュニアで優れたパフォーマンスをみせるプレーヤーをプロプレーヤーの高みまで引き上げていく選手選抜・護送システムががっしりと築かれているのだ。

 

下図はシドニーがあるニューサウスウェールズ(NSW)州のジュニアラグビーの組織運営図だ。シドニー地区のジュニアクラブのほかに、シドニー以外の地方区のクラブ組織、そしてハイスクール・小学校区の運営組織が含まれている。学校の運営組織に加盟しているのは、私立学校と公立学校の両方である。しかし実際は、ラグビースクールとも呼ばれる「伝統校」の多い私立学校が現状では圧倒的に優位にあり、プロプレーヤーの多くが私立系の組織から選抜される例が多い。

 

 

プロ級のトッププレイヤーを育成する選抜・護送のシステムは高校生レベルから本格化する。各地のラグビークラブや学校が選抜された選手たちが、プロのクラブチームの参加組織に編入されて、ハイレベルの訓練や実践を経験していくのである。

 

下記の名簿は、NSW州のラグビー統括団体でプロチームのワラターズが運営するエリートアカデミーに選抜された15歳以下の生徒たちの名簿である。

ラグビースクールとも呼ばれる私立の伝統校、St Joseph、Newinnton、St Ignatius、The Kings、The Scots などから選ばれた選手が多いものの、最近では公立校からも多く選ばれるようになったのが名簿から読み取れる。私立の伝統校はGPS(Great Public School)というラグビー対抗戦を実施しており、卒業生や一般のラグビーファンの間で人気が高い。日本の大学ラグビーの伝統校どうしの試合で見られる人気ぶりに似た盛り上がりをみせる。

 

ハイスクールを卒業後もラグビーを続けてプレーする場合は、いずれかのラグビークラブに所属してコルツ(18歳から22歳まで)という同世代グループチームの中か、上級グレードのチームに選ばれてプレーすることになるので、オーストラリアの場合、日本のような「大学ラグビー」が存在しない。大学の中にラグビークラブは存在するが、それぞれのクラブはラグビーの試合成績やレベルに応じて、ラグビー運営団体によって別々のリーグ戦やクラブ階層に振り分けられているのである。

 

したがって、大学名のついたラグビークラブであっても、所属メンバーにはその大学の学生もいるし、別の大学の学生もいる。さらに一般社会人からも加入が可能だ。例えば、シドニー大学のラグビークラブはトップクラスのプレミアリーグ(Shute Shield) に入っているので、ここから州代表や国代表となるプロ選手を輩出するセミプロだ。

 

ところが、大学の規模や知名度でシドニー大学と肩を並べるニューサウスウェールズ大学の場合は、シドニー地区のアマチュアクラブなどでつくるサバーバン・ラグビーユニオン(Suburban )の2部に位置している。つまり、この2つの著名大学のラグビークラブが同じ土俵で戦うことは無いのだ。日本ラグビーの早明戦や早慶戦など、スタジアムに大観客を集める大学ラグビーは、オーストラリアには存在しない。

 

高校ラグビーも同様で、東大阪の花園ラグビー場で毎年開催される全国規模の高校ラグビー大会のような大イベントは、オーストラリアには存在しない。

 

その代わり、トップレベルのスーパーラグビーから始まって、ハイレベルのクラブラグビー、地区クラブのアマチュアラグビー、スクールラグビー、ジュニアラグビーの試合が、シーズン中の週末にあちこちのラグビークラウンドで開かれる。

 

このように、オーストラリアのラグビー界は国代表クラスの選手とその所属組織を頂点するピラミッド型のヒエラルキーが厳然と体型的に構築されており、ジュニアからトップ選手までがプレーを楽しみ、そしてプレーヤーとして育成されている。こうした仕組みを通じて、ラグビー人口の裾野は、オーストラリアでは非常に広いと言えるであろう。

 

高校生、大学の年齢からプロチームの傘下組織に選抜され、ハイレベルのラグビーを身につけていく

このオーストラリアのラグビーを、ジュニアプレイヤーの育成活動を通じて縁の下からサポートしていきたいと考えている。ジュニアのラガーたちの成長をこのブログを通じて少しずつ紹介して、日豪のラグビーの間で小さな架け橋になれればと思う。願わくば、2027年のラグビーワールドカップの決勝トーナメントで豪州と日本が対戦して、両チームを応援するという「夢」が実現すればいいなと祈っている。

 

 

 

*筆者は日本のラグビー界とはほとんど縁がなく、高校時代と社会人時代にラグビーをちょっとかじった程度です。日本では3年未満の経歴しかなく、大学ラグビーとはまったく無縁です。ラグビーと深い関係ができたのは、シドニーに移住して会社員をやっていた30代の後半から。シドニーの地元のラグビークラブに入って、ほとんどいちからラグビーを始めました。この経験が人生の大転換点となりました。ポジションはプロップかフッカー。現在はシドニーのジュニア・ラグビークラブのコーチのほか、公式ラグビーレフェリー(写真中央)をシニアとジュニアの両方でやっています。